部屋のチャイムが鳴り、アンジェリークは訪れた人を確認した。
オリヴィエ様だ!
今日、お茶の席から逃げ出した事を、気にしていらっしゃるに違いない。
変な子だ、って怒っていらっしゃるかも。
それに、二人だけでお会いしたら、わたしどうしよう。気絶しちゃうかも。
ぷるると首を振って息をひそめ、居留守を決め込もうとしたアンジェリークの耳に、
ドア越しのオリヴィエの声が届いた。
「ここを開けて、アンジェリーク」
戸惑いとは裏腹に、アンジェリークの手は迷いなくドアの鍵を開けていた。
オリヴィエ様の言う事に自分は逆らえないんだ、とはっと気付いて、
アンジェリークの体は奥から熱くなった。
オリヴィエはにっこりと微笑んで、アンジェリークを見下ろした。
「はぁい。アンジェリーク。今、いい?」
「は、はい、どうぞ」
夢の守護聖とこんな間近で対面したのは、初めて会った時以来だ。
やはりアンジェリークの胸は、ドキドキと音を立てはじめた。
ぼおっと顔にみとれそうになり、アンジェリークは慌てて顔を伏せた。
勧められた椅子に座り、オリヴィエはゆっくりと足を組んだ。
あらわになった足へと視線が行ってしまうのを、アンジェリークは必死でそらした。
「今日は、すみませんでした。わたし」
「今日?」
きょとんとオリヴィエが見返したので、
アンジェリークはオリヴィエが怒っていないと気がついた。
「ああ」
くすっと笑ってオリヴィエはショールをひらひらさせた。
「周りは結構気にしちゃってたけど、別にその事で来たんじゃないから」
寛いだ様子のオリヴィエにひきかえ、
アンジェリークはぎこちなく部屋を横切って尋ねた。
「な、何かお持ちしましょうか?お茶とか、欲しいものはありますか?」
「んーん」
オリヴィエは軽く首を振ると、アンジェリークの腕を取って引き寄せた。
「私が欲しいのは、アンタ。アンタだけだよ」
取られた腕とその言葉が、電流のようにアンジェリークの体を痺れさせた。
嘘。オリヴィエ様が、わたしを、欲しいって?
封じ込めようと努力していた欲望が、
アンジェリークの体の奥から熱く湧き上がってきた。
ゆっくりと組んだ足を組み替えて、オリヴィエは尋ねた。
「アンタも、私と同じ気持ちじゃないかと思ったんだけど?」
「わ、わたし……」
「同じなら、私にキスをちょうだい?」
椅子に座ったオリヴィエより、立ったままのアンジェリークのほうが今は背が高い。
ふわりとオリヴィエのつけるコロンの香りがアンジェリークへ届くと、
花に引き寄せられる蝶のように、
アンジェリークの唇がオリヴィエの赤い唇へと近づき、重なった。
初めてのくちづけだが、アンジェリークの唇は開かれ、オリヴィエの舌をいざなった。
多分それは、夢で見たくちづけの名残り。
誘われたとおり、オリヴィエはアンジェリークの唇を味わった。
その、想像よりずっと感じてしまったキスで、
足から力が抜けしゃがみ込みそうになったアンジェリークを、
オリヴィエは抱き止め自分の膝の上に座らせた。
間近に青い瞳を見上げた緑の瞳が潤み、
睫毛をふるわせると大粒の涙が頬にこぼれ落ちた。
「お願い。もう一度……言ってくれますか?」
何を? と問わずにオリヴィエが答えた。
「可愛いアンジェリーク、ずっとアンタが欲しかったよ」
オリヴィエの長い指が、アンジェリークの涙をぬぐった。
「それが嘘じゃないって、今から教えてあげるから」
その言葉が終わると同時に、オリヴィエはアンジェリークにくちづけた。
優しく激しいキスだった。情欲の感じられるキスでもあった。
角度を変えて深くなるくちづけに、
アンジェリークの背中を快感とさらに激しい欲望が走り抜ける。
オリヴィエの手がアンジェリークの体を愛撫する度、腕輪がシャランと音を立てる。
オリヴィエの首に回したアンジェリークの両腕には、
二人が動く度オリヴィエのイヤリングがかすめる。
オリヴィエが腕に掛けていた黒い羽根のショールは、
椅子の下へと滑り落ちた。
くちづけが頬に首筋にと移動すると、アンジェリークの唇から吐息がこぼれる。
「あっ…ん……リヴィエ…ま」
ブラウスの上から丸い膨らみをオリヴィエが捕らえると、
アンジェリークはじかに触って欲しくて身悶えた。
キスと愛撫に夢中で応えるアンジェリークの手もまた、
オリヴィエの肌を求めて袖から服の中へとぎこちなく動いていた。
ふと手を止め、オリヴィエが指からひとつ指輪を抜き、テーブルに置いた。
それに気がついたアンジェリークは、
震える指をオリヴィエのイヤリングに伸ばし、
うかがいを立てるようにオリヴィエを見た。
「いいよ」
微笑んでオリヴィエはアンジェリークがアクセサリを外していくのを、
されるがままにした。
いくつもの腕輪、指輪、たくさんの装身具がアンジェリークの手で彼から外されていく。
オリヴィエの手はその間も、ゆっくりとアンジェリークの体をなぞっていた。
オリヴィエは、アンジェリークを抱き上げるとベッドへ運び、
体を離しカーテンを引くと服を脱いだ。
アンジェリークの目が、下着だけとなったその裸身に釘付けになる。
寒い星生まれの白い肌、調和の取れたバランスのよいしなやかな上半身、
なにより足がスラリと長い。
「オリヴィエ様……きれい……!」
その声ににっこりとオリヴィエが振り返った。
「そ? ありがと」
サンダルも脱ぎ捨てオリヴィエが戻ると、ベッドがぎしっと音を立てた。
再びキスが続けられ、今度はオリヴィエの手がアンジェリークのリボンを解いていく。
アンジェリークの体を優しく滑る指は、容易く彼女を生まれたままの姿にしていった。
「アンタこそ…すごくきれいだよ。アンジェリーク」
オリヴィエの声が欲望からか少しかすれていることに気付き、
アンジェリークは羞恥を忘れオリヴィエの肩に両手をまわしてベッドに倒れこんだ。
「あぅ…は……、あっ…」
素肌に触られる度、アンジェリークの唇からは声が上がる。
「カワイイ声だね……もっと聞かせて」
オリヴィエは夢中でアンジェリークの体の隅々までを撫でた。
思っていた以上にその肌は柔らかく滑らかで、触れるほどにしっとりと上気した。
オリヴィエの唇がアンジェリークの胸元に降り、
白い肌へゆっくりと舌を這わせた。
熱い。
アンジェリークは今にも体が溶けて流れ出しそうな感覚に囚われた。
「オリヴィエさ…ま」
焦れてもっと早くと言いたいのか、
それともずっとこのまま緩やかな快楽のなかにいたいのか、
自分でも分からずアンジェリークはオリヴィエの背に手をまわした。
柔らかく張りのある乳房をゆっくりと揉みしだかれ先端の蕾を口に含まれ吸われると、
アンジェリークはゆるゆると首を振ったがそれは拒絶の現われではない。
さらにオリヴィエの手が、アンジェリークの体の奥を探る。
ぴくりとアンジェリークの足が反応したが、膝を閉じようとはしなかった。
オリヴィエは蜜に濡れた指で、探り当てた花芽をやさしく愛撫した。
「ああっ……!」
アンジェリークの声が高くなり、オリヴィエは耳元に囁いた。
「もっと聞きたいけど……少し、抑えて。ロザリアがびっくりしちゃうよ」
言われて、はっと、アンジェリークは両手で口を塞いだが、
高まる息を抑えようがなく、苦しげに喘いだ。
「んんん…!ふっ…ん」
オリヴィエの指が、アンジェリークの反応を確認しながら、
ゆっくりだが確実に彼女を追い詰めていく。
「いいよ。もっと私で感じて。気持ちイイ顔、見せて」
「やっ……ぁん……そんな…」
もう片方の手でオリヴィエはアンジェリークの胸へ愛撫を加え、
舌を肌へ這わせた。呼吸が速くなり、アンジェリークは自分がどんどん溶け、
彼を受け入れたくて溢れていくのを感じた。
「オリヴィエ、さま……っはぁ、…っん! あぅ」
「ん……大丈夫だよ、アンジェリーク。私はここにいるから」
オリヴィエに導かれ、アンジェリークは快感の階段をかけ上った。
「あっあ……っふ、んんん……!」
漏れた高い声をオリヴィエは唇で塞ぎ、
彼女の快感が長く続くよう指の動きをアンジェリークの波に合わせた。
アンジェリークの手が緩み、オリヴィエの背から片方ぱたりとベッドへ落ちた。
オリヴィエも責めていた指を戻し、
まだはぁはぁと息をつくアンジェリークの瞼へキスを落とした。
汗で額と頬についた金の髪を優しく梳きながら、オリヴィエは囁いた。
「好きだよ。アンジェリーク」
ぱちりと緑の瞳が大きく開き、オリヴィエを見つめる。すぐに答えはあった。
「わたしも。わたしも好きです」
どうして気がつかなかったんだろう。こんなに好きだったのに。
あまりにもオリヴィエ様が欲しくって、苦しくって、
”好き”が大きすぎて分からなかった。
アンジェリークは頬を薔薇色に染め、はにかみながら微笑んだ。
「だいすき」
やっと、笑顔を見れた。
ずっと、見たかった笑顔。
「ん」
オリヴィエも微笑みかえし、再びくちづけた。やわらかなキス。
アンジェリークは、真直からオリヴィエの薄いブルーの瞳をじっと見上げた。
「だめ」
何? とオリヴィエが問う前に、
アンジェリークは頭をもたげて自分からキスし、首を振った。
「ここで帰ろうって思ってるでしょ? だめです」
「そんな……」
そんなことは、ある。
オリヴィエはこのまま帰ろうと思っていたのだ。
今日は、アンジェリークの全てを奪うつもりはなかった。
アンジェリークが望むなら、今のようにいくらでも与えようと思っていたが、
最後まで行くのにはもう少し時間が必要だと感じていた。
けれど、アンジェリークは真っ赤になりながら、切なげに眉を寄せ、
しかし目を逸らさずに言った。
「お願い。オリヴィエさま……来て」
もっとそばに。
オリヴィエは軽く頭を振って、ふっと笑った。
そんな事言われたら、もう止まれないよ、アンジェリーク。
下着を脱いでオリヴィエがアンジェリークの足に手をかけた。
「いい? 力を抜くんだよ」
「はい……」
アンジェリークは頷くと小さく返事をし、目を閉じて深く呼吸した。
彼女の足が微かに震えているのに気付き、オリヴィエがそこへキスを落とす。
オリヴィエは彼女に自身をあてがい、ゆっくりと前へ進んだ。
「……っふ……んくっ!」
自分で望んだ事とはいえ、アンジェリークの体は初めての進入を拒んでいるようだった。
オリヴィエはきつい締め上げに顔をしかめながらも、奥へ進むのに躊躇はなかった。
全てを収めきると動きを止め、オリヴィエはアンジェリークを抱きしめた。
「ああ……ずっと、こうしたかったよ」
痛みで瞳を涙で滲ませながらも、
アンジェリークはオリヴィエの背に回した手に力を込めた。
「わたし…も、です」
アンジェリークの目尻へオリヴィエの舌が伸び、浮かんだ涙を舐め取った。
何度も夢で愛し合った時には感じなかった痛み。
それもがアンジェリークには嬉しく、間近にあるオリヴィエの瞳を見上げてキスを求めた。
すぐに与えられたキスだけでなく、
自分の頬や裸の肩へかかるオリヴィエの髪が現実を物語っていた。
「オリヴィエ様……あっん……すごく、好きです」
それへも、すぐにいらえがある。
「ん……大好きだよ、アンジェリーク」
アンジェリークの体から余計な力が抜け、
オリヴィエの緩い動きに応える様に、彼を包むアンジェリークが誘う。
「……っく、アンタ、そんなふうに、された…ら、もう……!」
苦しげなオリヴィエの声に、アンジェリークは大きく頷いた。
それを見て、
オリヴィエはアンジェリークの背から腕をまわして肩を逃げないように掴まえると、
最初はゆっくり、段々と激しくアンジェリークを突いた。
「…ッリヴィ…さ…っふ……ん…ん……んん!」
高く上がりそうになる声は、オリヴィエの唇が塞ぐ。
「……アンジェリーク……!」
「これは……夢じゃないですよね」
アンジェリークが、オリヴィエの肩に頭を乗せてぽつりと呟いた。
「ん。私も夢じゃないといいなと思ってる」
その言葉に驚き、アンジェリークが頭を起こしてオリヴィエを見た。
「もしかして、オリヴィエ様も……」
「も、すっごいの。多分アンタと同じ夢?」
かあぁっとアンジェリークは真っ赤になって、オリヴィエの胸に顔をうずめた。
恥ずかしい。夢の中の自分は、ストレートに貪欲にオリヴィエ様をを求めていた。
まさかそれを、彼が知っていたなんて。
けれど、だったらもう、何も自分には隠さなくてはならないことはない。
アンジェリークの熱い胸へ穏やかな安堵がよぎり、彼女は柔らかな表情を浮かべた。
ふふっと笑いながら、
オリヴィエがアンジェリークの金色の髪を弄ぶように指に絡めた。
「ずっと、オリヴィエ様を見るだけでも、苦しかったです。
わたし、自分だけおかしくなったと思ってました」
「ああ」
耳だけでなく、胸に当てた頬から鼓動と共に声が伝わる。
「分かってたよ。どうしてアンタが私を避けるのかも。
分かってて苦しませたね。ごめんよ」
アンジェリークは慌てて首を振った。
「オリヴィエ様は悪くないです。けど、こんな事初めてだから、
自分ではどうしようもなくて、どうしたらいいかも分からなくて」
オリヴィエは頷いた。
「そうだね。止めようもないことは私も同じだったし、だから迷ってたよ。
けどさ、もう覚悟を決めたんだ。アンタを誰にも渡さないし、
何からでも守りたいって」
それを聞いてアンジェリークは、うれしさと不安とが入り混じった表情を浮かべた。
「こんなふうになってよかったのか、本当は分からないです。でも今は」
アンジェリークは言葉を切り、オリヴィエの顔をじっと見て微笑んだ。
「すごく幸せ、みたいです」
それを聞き、オリヴィエは慈しむような柔らかな青い瞳で彼女を見返した。
そして体を起こしてアンジェリークに優しくキスした。
「私もだよ」
2008.1.19 |
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