「それでは、育成をよろしくお願いしますね」
「心得た」
ぴょこんとお辞儀をしてアンジェリークはジュリアスの執務室を後にした。
最近大陸の様子も落ち着いて来、ジュリアスの執務室を訪ねることも苦ではなくなってきた。
ジュリアスに今日はお茶まで振舞ってもらったアンジェリークは、
心なしかうきうきと踵を返した。
「ん?」
聖殿の廊下の曲がり角を、たった今消えて行ったのは炎の守護聖ではなかったか。
今日はまだお会いしてなかったわね、ご挨拶したほうがいいかしら?
アンジェリークは廊下をオスカーを追いかけて小走りした。
「あれ?いない」
この先は行き止まりだった筈だ。
見間違いだったのか、それとも他の守護聖の部屋へ消えたか、
その姿はもう見えなくなっていた。
アンジェリークがキョロキョロと辺りを見渡して耳を澄ますと、くすくすと笑い声が
聞こえた気がした。男性の声ではなく、少し高めの女性の声のようだ。
もしかして外?アンジェリークは開いていた廊下の窓から、体を乗り出した。
窓の下では、草の上からゼフェルが身を起こしたところだった。赤い目がぼんやり
しているところを見ると、どうやら直接草の上で居眠りをしていたようだ。
ゼフェルは窓の上のアンジェリークと目が合うと、半分閉じたまぶたのまま、
よぉ、と手を挙げた。
ゼフェルが自分の好きなことにひどく熱中して取り込むことを、
アンジェリークは知っていた。多分昨夜も遅くまで、何か作って
いたのではないだろうか。
アンジェリークはにっこりと笑って、今日はお昼寝には気持ちよさそうだな、と
窓からゼフェルの隣へピョンと飛び降りた……が、
勢い余ってその体へ倒れこんだ。
「おまっ!何っ……」
「すす・すみません!ゼフェルさま」
ゼフェルの胸にアンジェリークの柔らかな膨らみがぎゅっと押し当てられ、
彼は真っ赤になってどなった。アンジェリークも赤くなり、
慌てて彼の胸へ腕を立てて上体を起こした。
「お前なぁ……。それにスカートで飛び降りるか普通。」
「えへへ……目、覚めました?」
アンジェリークはゼフェルから体を離しながら、きまり悪そうに笑った。
心臓の音がどんどん大きくなっちゃう。どうしよう。そう思いながら。
「目は覚めてたけどよ。」
ちろりとゼフェルはアンジェリークを睨んで尋ねた。
「さっき、笑ってたのはお前かよ?オレが寝てるの見て笑ったのか?」
アンジェリークは首を振ってそれへ答えた。
「いいえ、それはわたしじゃないですよ。わたしも女の人が笑う声が聞こえたので
窓から外を覗いたんです。そしたらゼフェル様がいらして」
ゼフェルは草を払いながら立ち上がり、アンジェリークを振り返った。
「ふ・・・ん、まぁいいけどよ。その、まあ、お茶でも飲みにいかないか?
もう3時くらいになるだろ?」
うれしい!ゼフェルさまに誘っていただいちゃった。
いつも本当は二人でそんなふうに出掛けられたらな、と思っていた。
アンジェリークの胸の鼓動がまた速さを増す。
「はい!ゼフェル様」
ところが、すたすたとゼフェルは歩き出して
「ルヴァんとこに変わったお茶菓子があるらしいぜ」
かっくん。立ち上がりかけたアンジェリークは膝をついてしまった。ル・ルヴァ
様のところ?なあんだ、期待しちゃった。
かっくりと首をうなだれたが、すぐにアンジェリークは浮上した。
ルヴァ様の所でも、ゼフェル様といっしょにいられるなら、わたしにとっては……。
「ルヴァ様のお部屋だったら、こっちじゃないんですか?」
「この裏を通って行けば早いんだよ」
ゼフェルの後ろを、アンジェリークは少し遅れて付いて行った。
が、突然ゼフェルが立ち止まったので、
アンジェリークはゼフェルの背にぶつかってしまった。
「ゼ・・・」
「しっ!」
ゼフェルは急にアンジェリークの口を手で抑え、壁にその体を
押さえつけた。自分も壁にくっつくように隠れた
ゼフェルのその目は、聖殿の裏口横の奥まったところを凝視したまま
動かない。
ゼフェルの視線を追って、そちらを見やったアンジェリークもまた、その光景に
愕然とした。
先ほど見失った炎の守護聖その人が、聖殿付きの女官であろう女性とシルエット
ひとつに揺れていた。二人は向かい合って立ったまま抱き合っていたが、一目で
ただ抱き合っているのではないことが分かった。
女性の胸元ははだけ、白く豊かな乳房が見え隠れしている。そこへオスカーの
頭が下がり、女官はオスカーの頭をかき抱いた。片足はオスカーの腕によって
高くあげられ、その結合部分さえもゼフェルとアンジェリークの前に
さらされていた。彼女の着衣の乱れに比べると、炎の守護聖のそれは
僅かだ。
結い上げていた髪がひとすじ解け、オスカーの動きに合わせて揺れている。
オスカーが女性の耳元へ何事か囁くと、彼女は声を抑えて喘ぎ、その白い首を
のけぞらした。オスカーの舌がそこを這い、唇へと辿る様子すら見て取れた。
アンジェリークは目の前で繰り広げられる光景に、息も出来ず見入っていた。
ゼフェルも同様に、足が動かず目をそらすこともできなかったが、自分の体の
血だけが、すごい勢いで一点に集中していくのを感じていた。
アンジェリークの耳に、ゼフェルの喉がごくんと音を立てるのが届いた。
オスカーの思うさま揺す振られる柔らかな体であったが、自分からオスカーの
動きに合わせて腰をくねらせていた。
時折その姿をみせる炎の守護聖自身はかなりの大きさが伺えたが、
彼女へと軽々と包み込まれ、呑みこまれている。
リズミカルに上下していたオスカーの体の動きが、速くなっていく。
激しい突き上げに、女官の、
地面に着いていたはずのもう一方の足までもわずかに宙に浮いている。
さらに速くなった動きによって、2人は同時に高みへと飛び立った。
弛緩する体を、オスカーは2人分支え、壁に額をつけて息をついた。
空を飛んでいた女官の意識が戻ってくるのを見極め、オスカーは
すばやく彼女と自分の着衣を整えた。そして軽々と彼女を抱き上げると、
足音響かせて裏口から聖殿の中へと姿を消した。
先ほど聞こえたくすくす笑いが、扉が閉まる寸前にまた聞こえた気がした。
呪縛が解けたようにアンジェリークの足から力が消え、その場に崩れ落ちた。
知識として知っていたことであったが、
こうしてまざまざと目の当たりにすると、衝撃は大きかった。
唇を軽く合わせるキスは経験したことがあったが、
今目にしたことはアンジェリークの常識の範疇を超えていたのだ。
しかし、嫌悪感は何もなく、まるで自分がオスカーにそうされて
いたかのように、体が熱かった。
ゼフェルが突然、アンジェリークに屈みこみ唇に唇を重ねて来たが、
我知らずアンジェリークは自分からゼフェルに体を伸ばしていた。
性急で稚拙なかみつくようなキスだったが、アンジェリークはそれに
応え、ゼフェルの背中へと手をまわしていった。
二人は草の上に座り込み、熱に浮かされたように夢中で唇を求め合っていた。
ゼフェルの手が、おずおずとアンジェリークの胸へ伸びた。
ブラウスの上から触れる手の感触に、アンジェリークの心臓がどきどきと
音を立てた。
ゼフェルがブラウスのボタンに手を掛けたが、キスを続けながらの
手探りの作業が難しく、諦めてブラウスの裾を手繰った。
滑らかな肌に触れたゼフェルの手が、急に荒々しさを増し、
ブラジャーをずらすと直にアンジェリークの乳房を鷲づかみにした。
「・・・は・・・うんっ」
唇を離し、アンジェリークの口から吐息がもれた。逃げた唇を追って
ゼフェルがアンジェリークの背中を引き寄せる。
柔らかな乳房を乱暴に揉みしだかれ、快楽と苦痛がないまぜに
なりながら、アンジェリークの閉じた瞳の奥には、先ほどの
オスカーと大人の女性との行為が浮かんでいた。
ゼフェルにはブラジャーをはずすのに必要な知識がなかったため、
草の上にアンジェリークを強引に押し倒し、ベストをはだけさせると
ブラウスごと下着を胸の上にたくし上げた。
「あっ・・・やっ・・・!」
力なくアンジェリークが隠そうとする手を押しのけて、
ゼフェルは白く輝く乳房に見とれた。そして、柔らかな色の
先端に誘われるように唇を寄せ、口付けてせわしなく吸った。
「ああん!」
痺れるような感覚が走り、アンジェリークの下半身は熱く
溶けそうになる。仰向けになっているため、目を閉じても瞼ごしに
太陽の光が熱い。
ゼフェルの手がアンジェリークのスカートの下へ伸び、太ももをさまよ
いだした。
それまで初めて知る欲求に翻弄されていたアンジェリークだったが、
急に不安が頭をかすめた。
「だめ・・・ゼフェル様、だめです」
言われてびくりとゼフェルが手を止めた。
「なんでだよ。なんでダメなんだよ」
「わたし・・・わたし怖いです。それに、こんなところで・・・」
そこでやっとゼフェルは、自分たちが先ほどオスカーたちを
見ていたように、誰でも自分たちを見ることができることに
思い至ったようだった。しかも彼らは一応奥まったところで
陽にさらされてもいなかったが、自分たちのいる場所は
壁際ではあるものの草の上、明るい太陽に照らされている。
ゼフェルの手が緩んだのを見て、アンジェリークはそっと
服を直した。が、まだその体はゼフェルに組み敷かれて
仰向けのままだ。
「アンジェリーク、お前、俺のこと嫌いか?!」
ゼフェルは、アンジェリークの両手首を草の上に押さえつけた。
アンジェリークは首を振り、真っ赤になって答えた。
「嫌いなんかじゃないです。わたし、ゼフェル様が好き……」
それは初めての告白だった。
ゼフェルはその唐突な告白に目が覚めたかのようにパチパチと瞬きし、
自分も真っ赤になった。
「俺、俺もお前が……好きだ」
「ゼフェルさ…」
アンジェリークの言葉は、ゼフェルのキスでふさがれた。でも
今度のそれは、荒々しさはなく、柔らかな甘いキスだった。
「その…悪かったよ」
ゼフェルはアンジェリークを地面から起こし、背中の草を払った。
「あんなもん見せられて、俺、カーッとしちまって」
「わたしも」
二人の脳裏に、また先ほどの光景が浮かんで消えた。
「わたし、キスもそれ以上も、ゼフェル様となら好きです。
でも、その先は、もっともっとゼフェル様を好きになってからでも
いいですか?」
「そうだな」
少し残念そうに答えたゼフェルだったが、アンジェリークの目を見て
照れくさそうに言った。
「俺、今日は順番が違ったと思うけど、
お前の気持ちが分かって、うれしかったぜ」
ゼフェルは、宝物を抱くように、そっとアンジェリークを抱きしめた。
「でもよ。・・・・すごかったよな」
「そうですよね」
二人は顔を見合わせて、また赤くなった。
ええとですね。実はこれがわたしの二次創作第一作でして。
(一作目がR18かよ!という声が、ああー聞こえますね・笑)
2000年から2年くらいかかって書いていた記憶があります。
そう、一作上げるのに2年くらいかかってたんですよ。
(あともう1作あって、3作目は未完)
なので、二次創作は「ほぼ」2007年8月から(笑)なのです。
1作しかないのに、EASTERへアップしていました。
今回あまりに気になる部分は書き直しました。濃い所はそのまま。
2007.10.17 |
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