我慢で・き・な・い 3
イタシてしまった。
彼女の、そして彼の望むとおり。
しかもかなり激しい営みになってしまい、
途中からはもうオリヴィエにもアンジェリークにも訳が分からなくなった。
それもその筈、近くにいながらも、もうここ三ヶ月も禁欲生活を送っていたのだ。
もどかしくお互いの服とアクセサリとを剥ぎ取り、貪るように唇を求め合った。
交わす言葉すら間に合わず、視線だけで「スキ」を伝えた。
迸る欲求のまま指を体を絡め合い、浅く深く快感を追いかけると、
二人ともあっという間にそれを手にした。
それでも足りず何度もお互いへ堕ちてゆき、世界が白く熱く溶けるほどに感じて。
狭いソファーに重なって呼吸がゆっくりになっていく時間を漂いながら、
オリヴィエはアンジェリークのこめかみにくちづけた。
気が付けば、床へ脱ぎ散らかされた服たち。
そういえばドアへ鍵を掛けることすら忘れたままだった。
「アンタにかかると、自制心って言葉、私の辞書からは消えちゃうみたいだよ」
オリヴィエの腕の中で身動ぎし、アンジェリークは彼を見上げた。
「わたしの辞書にはもう、オリヴィエ様、としか書かれてませんよ」
金色の睫毛を震わせて見上げる瞳には、欲望の欠片がまだちらちらと残っており、
オリヴィエは頭をもたげてアンジェリークの唇をきつく奪った。
それにしても。行為の最中に、光か地の守護聖が押し掛けて来るかとも思ったが、
さすがにそれはなかったようだ。けれど今すぐにも、ドアがノックされるかもしれない。
もう少し、こうしてたいよ。
オリヴィエがアンジェリークの背へ指を滑らせると、
彼女は笑ってお返しに彼の胸へ手を這わせた。
来ないね。
身支度の時間を見計らっている可能性を考えて、緩やかな時間を振り切ると、
オリヴィエはソファーから身を起こした。
「シャワー浴びよっか」
オリヴィエはそろそろと光の守護聖の執務室の様子を廊下から窺った。
今日はかのひと、どこかへ出張だっけ?
ノックをするとすぐに答えがあり、
オリヴィエはドアから部屋の中へ顔だけ覗かせた。
「どうした、オリヴィエ。何用だ?」
「えーとさ、ジュリアス。
さっきさ、その。なんか感じなかった?」
歯切れの悪い彼の物言いに、
ジュリアスの眉が寄せられる。
「何か? 何かとは地震、とかか。いや。
何も感じぬが」
オリヴィエはどう返答しようか迷い、首を振った。
「そう。ならいいんだけど」
納得の行かない様子に、ジュリアスも首を捻った。
オリヴィエは笑顔を作り、手をひらひら振ると、邪魔したね、と退出を述べた。
オリヴィエは自分の執務室の中をうろうろと歩き回った。
この間と、何が違う? 夜と昼? 昼のほうがひとの意識が多く覚醒しているから?
私邸と宮殿の違い?
オリヴィエはぱっと顔を上げてにっと笑った。
「ひとつずつ、確認していかなくっちゃね」
まだ執務が終わる時間までもう少しあった。だがオリヴィエはアンジェリークの手を引き、
彼女を馬車に押し込んだ。
「今から? オリヴィエ様の私邸に行くんですか?
どうして?」
「すごく大事なコト。執務よりも。
アンタとわたしにとって、宇宙の未来と同じくらい大事な」
オリヴィエが熱い視線を送ると、
アンジェリークは首を傾げながらも頬を染めて彼を見返した。
「あっ……ン。っは、オリヴィエ様、あの、さっき……たばかりで、んっ」
連れて行かれた寝室で、すぐにアンジェリークは声を上げさせられた。
「そう。全く、アンタに襲われちゃうとは思わなくてさ。……お返し?」
くすくす笑いながらオリヴィエはアンジェリークの耳へ囁き、
そのまま耳の後ろから首筋に舌を這わせた。
「好きだよ」
アンジェリークは顎を震わせて喘ぐ。
ベッドで向かい合わせに座り、先程の性急さとは全く逆に、
焦らすようにオリヴィエは少しずつアンジェリークへ触れた。
「次、どこへ触ろっか。どこ? ここ?」
私服のワンピースの上から、オリヴィエは胸の膨らみの中央を指先で撫でた。
途端にアンジェリークの体がビクっと反応する。
オリヴィエは頬と唇へ触れるか触れないかのキスを移動させて囁く。
「言ってごらん」
指先でアンジェリークの手の平と指の間を羽根のように撫でて促すと、
彼女は吐息で答える。
「胸、に……直接、っん、触って、あ……欲しいです」
オリヴィエはアンジェリークのワンピースの前ボタンを三つ外し、
上から手を胸へ差し入れた。
「着たまま、もヤラシーね。ねえ、
やらしいコト、好き?」
指を柔らかく動かしながら尋ねると、
アンジェリークは頬を上気させぼうっと視点が定まらないまま頷いた。
「オリヴィエ様が、すき。
オリヴィエ様とする……やらしいこと、も……っふ、好きです」
くちづけて。少しずつ触れて。
ゆっくり進めていると、玄関のドアが強い力で叩かれているのに気付いた。
寝室からは聞こえなかったが、多分チャイムも鳴らされていたのだろう。
控えめに寝室のドアが側仕えの手でノックされ、来客を告げられた。
オリヴィエは、やっぱりね、と思いながらアンジェリークの服を直してやった。
「身繕いしたら、アンタも来てね」
そうオリヴィエはアンジェリークに声を掛け、応接間へと足を向けた。
そこには炎の守護聖が苛立たしげに組んだ足を揺らしながら座っていた。
「ジュリアス様がお怒りだ。陛下がいらっしゃるだろう? 俺が迎えに来た」
口の端を上げてオリヴィエはオスカーを見下ろした。
「別に、私も戻るからあの子といっしょに馬車で行くよ」
少しばかり楽しげなオリヴィエに、オスカーは眉をしかめた。
「お前、溜めすぎてどっか変になっちまった訳じゃないだろうな」
確かにさっきはかなり変になってたかも、そう思いながらオリヴィエは肩を竦めた。
アンジェリークが応接間に姿を現し、オスカーは臣下の礼をした。
「陛下、お迎えにあがりました。ジュリアス様がすぐに戻るようにと」
「執務中に抜け出して、ごめんなさい。でもどうしてすぐにここにいると分かったの?」
オスカーが一瞬言葉に詰まったのを見てオリヴィエが片目を瞑った。
「私が執務室付きの者へ言ったのさ。ちょっと陛下と私邸へ戻るって」
頬を微かに染め、ジュリアスが眉をしかめてオリヴィエを見た。
「全く、どういうつもりなのだ。守護聖には、歳若の者もいるのだぞ。
しかも、昼間だというのに……」
ゴホンと咳き込むジュリアスをオリヴィエは腕を組んでちらっと見た。
そう、その叱責は、本当はさっき聞く筈のものだったのにね。
「ちょっと、実験中なんだよね。ねえジュリアス。もう一回見逃してもらえないかな」
同席していた地の守護聖が興味深そうにオリヴィエを見返した。
そして今度は夢の守護聖の執務室で、
オリヴィエはアンジェリークに私邸の寝室でした行為の続きを始めた。
「オリヴィエ様、どうしたんですか。……っあ。さっきから、きょうは」
疑問の言葉を彼女の唇へ指を当てて封じ、オリヴィエは微笑んだ。
「ん。アンタに仕掛けられて、私、リミッターが外れちゃったんだよね」
だから。と、オリヴィエの指がアンジェリークの腕を登り、今度は脇を下りる。
細い顎の縁をつうっと舌で撫でると、アンジェリークはすぐに陥落し、
キスして、とせがんだ。
オリヴィエはアンジェリークを執務机に腰掛けさせ、
啄ばむようにくちづけた。そして舌で唇を刺激して開かせつつ、
唇で食むようにアンジェリークの甘い唇を堪能する。
その間も手は休むことなく、服の上からアンジェリークの体をなぞっていた。
アンジェリークの腕がオリヴィエの首に絡まり、次第にキスが深くなり……
すると執務室のドアへ激しいノックが響いて、オリヴィエは彼女から唇を離した。
「やっぱ、そっか」
小さく呟いてアンジェリークの乱れた髪を直してやり、
彼女を机から下ろすのに手を貸した後、オリヴィエは扉の鍵を開けた。
オリヴィエはそこへ立っていたジュリアスとルヴァへ頷き、顎を上げた。
「女王宮の女官頭に会いたいんだけど」
年配の女官頭は、守護聖を前に深く頭を下げた。
オリヴィエは彼女へ顔を上げるよう促し、じっと目を見て尋ねた。
「どこの書物にも記されていない女王陛下の恋人のことを、
あんたたちなら知っている筈だよね」
それは多分、女官たちを束ねる歴代の者へ、口伝てに伝えられているだろう真実。
「恐れ多くも、女王陛下の私生活に関して、わたくしたちが語ることなど出来ません」
オリヴィエの眉が上がる。
「ああ。そうだろうね。ましてや公式では、
女王陛下には恋人はいらっしゃらない事に……」
オリヴィエは言葉を切って、肯定するように再び頭を下げる女官頭を見下ろすと、
何も言わずに彼女の答えを待った。
しばらくそのまま沈黙が流れたが、女官頭はおもむろに口を開いた。
「ですが、
わたくしたちには、オリヴィエ様をいつでもお迎えする準備は出来ております」
オリヴィエの瞳が輝き、思わず跪くと女官頭の手を取った。
「ありがとう。感謝するよ」
「なるほど。女王宮は守られている訳ですね」
ルヴァがうんうんと頷きながら呟いた。
髪に指を入れて梳きながら、オリヴィエは頷いて窓から外へ目を向けた。
「だろうね。考えてみたら、さ。
女王陛下が悩みで揺らいだり怒りに支配されたとして、
四六時中それが洩れてたら、私たちにだってたまったもんじゃないよ。
ま、それがどんな仕組みなのか調べたければ、
ルヴァと王立研究院が極秘で進めるしかないだろうけどね」
横で聞いていたジュリアスもまた、ふむ、と顎へ手を当てた。
「今までの女王陛下たちは、めったに女王宮からお出になることもなかった。
だが我らの陛下は、そんな慣習を全て飛び越えておいでだ」
オリヴィエはそれを聞いて吹き出した。
「ああ。さすが私のあのコ、って感じ?」
そして、オリヴィエはここ数ヶ月の間で一番の艶やかな微笑みを浮かべ、
音のするくらいのウインクを放った。
「やっ……も、だめ。オリヴィエ様……わたし、ひッ」
「いいよ。何度だってイッてよ。ほんとアンタって、カワイイ」
オリヴィエは我慢できないまま、制御する気もないまま、アンジェリークを求めた。
柔らかな足を抱え、いつもよりも激しいペースで彼女を追い上げる。
強すぎる刺激にアンジェリークは涙を滲ませていやいやと首を振った。
「ちがっ……だって、明日、お休みじゃ……アッ、ない、のに」
足から手を離してリズムを落としゆっくりと回すように攻めると、
アンジェリークが、あぁ、と深い息をついてオリヴィエへ手を伸ばした。
起こしていた体を倒してアンジェリークの頬へキスを落とし、
オリヴィエは目を細めて意地悪そうに笑った。
「まだ、ダメ。私の不安の残り火がまだ燻ってるうちは、
こう……してて。っふ、まだ、全然足りない、よ」
女王の寝室の大きなベッドで、逃げ場もなくアンジェリークは体を震わせた。
不安、と言う言葉には小さく疑問の表情を浮かべたものの、
それよりも気になる言葉をアンジェリークは口にした。
「残り火、だなんて、嘘。はっァ……すっごくたくさ、ん、燃えてませんか……ぁ」
んふふ〜。楽しそうに笑ってオリヴィエはアンジェリークの耳元へ囁いた。
「そ? じゃ、アンタにももっとくべたげる」
end
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この話はですね、ほのぼのなお話で
「いま女王陛下の優しさが聖地に満ちているのを感じる」とかって出てくると、
その場合アンジェリークに恋人いたらすごくやばいんじゃね? と思ったとこからです。
けども、オチがあんまりですね。力不足です。しゅん。
タイトルは「我慢できない」ですけど、オリヴィエ様は三ヶ月我慢していらっしゃいます。
ああ、我慢できなかったのはアンジェリークのほうなのね!(←バカ)
(アンジェリーク攻めが非っ常に楽しかったのはここだけのハナシ)
2008.5.2
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