キスだけじゃ帰せない


 青い髪の補佐官を迎え入れ、 オリヴィエは応接間のドアが締まると同時に彼女に口付けた。
「ん……オリヴィ……」
 ロザリアに息つく暇も与えずに、オリヴィエはその唇を堪能した。 自然とロザリアの足から力が抜け、体が崩れそうになる。 オリヴィエはキスを続けたままロザリアを抱き上げ、ソファーまで運んだ。
「待っ……」
 唇が離れる僅かな時間に、懸命にロザリアはオリヴィエに話しかけようとする。 それにもちろん気がついているものの、オリヴィエは取り合わない。
 ソファーにロザリアを降ろし、オリヴィエはその正面へ片膝だけソファーに置く。 ロザリアの頭をソファーの背に載せると、さらに口付けを深くした。 ロザリアの頬へ肩へと、オリヴィエのサラサラの髪が落ちかかる。
 その髪のひと房をロザリアは手で引き、 やっとオリヴィエの注意を引くことができた。
「何?」
 唇は開放されたものの、次にオリヴィエの唇が滑る先はロザリアの首筋。
「あの、オリヴィエ、こんなことばかり。他にも」
 オリヴィエは体をすこし離してロザリアの顔を上から見た。 軽くしかめた眉が、不機嫌を載せている。
「何さ。やっと二人きりで会えたっていうのに、 アンタは私とキスするよりもっと、したい事があるって言うのかい?」
 それを聞いてロザリアは赤くなって言葉を失った。ロザリアには、なかった。
表情からそれを読み取って、オリヴィエは凶悪な微笑みを見せた。
「じゃあ、いいじゃん」
 再び深いキス。 オリヴィエの舌がロザリアの口の中をゆっくりと探索する。 逃げようとする舌に舌を絡めて、強く吸う。


 ふた月ぶりにここで会い、 ロザリアがオリヴィエから告白をされたのは6日前。
 月の曜日、オリヴィエは女王陛下とランディの前に仁王立ちすると言った。
「補佐官姿での外出は禁止! ロザリアとランディとの噂が聖地中に広まったらどうしてくれんのさ」
 女王陛下はオリヴィエを宥めるのに大変だったらしい。 ランディのほうも、当面の間オリヴィエの下僕となることに決定したようだ。
 そしてその足でオリヴィエは補佐官の執務室を訪れ、 執務中だというのにロザリアをキス攻めにし、彼女をカンカンに怒らせた。
 結局ロザリアはオリヴィエに、執務室への立ち入り禁止を宣言した。
 で、今日の土の曜日である。


「あ……ふ……」
 ロザリアはずるずるとソファーの背から崩れ落ち、 オリヴィエに押し倒された格好で二人はソファーへ重なった。 ロザリアの腕がオリヴィエの首に回されると、 オリヴィエは満足そうに、んふ、と笑う。
 それはロザリアの好きなオリヴィエの笑い声で、 薄く目を開けてロザリアはオリヴィエを見た。 トロンと酔ったような瞳に─もちろん彼女は酔っている、彼に、彼のキスに─ オリヴィエは急かされる。懸命に自分を抑え、 そっと、ロザリアが気がつかぬほどそうっと、 彼女の服のボタンに手を掛けた。
「……ああっ!」
 痺れるように訪れた快感にロザリアは声を上げ、 その自分の声で我に返った。
「あ……。きゃあっ!」
 自分の服の前が全てはだけ、オリヴィエの前に肌を晒していた。 それだけならまだしも、オリヴィエの片手がロザリアの乳房を包んでいる。 その上何と、オリヴィエの服もはだけ、 自分の手が彼の肌の上をさまよっていたのだ。
「嫌。だめ、オリヴィエ」
 その言葉が、更にオリヴィエを煽ることなど、ロザリアには想像つかない。
「ダメじゃない。アンタは柔らかいね」
 殊更ゆっくりと、オリヴィエはロザリアの乳房を揉むと、 彼女へ見せるようにもう一方の先端へと口付ける。
「あ…っん!や……」
 体を走り抜ける快感に翻弄されそうになったが、 ロザリアはオリヴィエの肩を拳で叩いた。
「だめですわ!やめて、オリヴィエ」
 顔を上げて髪を掻きあげたオリヴィエは、 目を細めてロザリアを睨むと微笑んだ。
「往生際が悪いね、ここまで来て」
 ロザリアはその言葉で頭に血が上った。
 ここまで来て、って何ですの?! オリヴィエが勝手にここまでしたんじゃないですの。
「わたくしは、応接間なんかでは、嫌ですわ!」
 その言葉にオリヴィエは、ん、と頷いた。
そしてひょいとロザリアを抱き上げると足早に歩き出した。 足を向けた先は、もちろん、寝室だ。
 ロザリアは自分の服の前を掻き合せたが、 密着したオリヴィエの素肌が気になって仕方がなかった。 ブラウスの裾が、足早に歩く彼の後ろにはためく。 何をしていたか丸分かりの二人の姿。
 もしこちらの側仕えのかたと顔を合わせたら、どんな顔をすればいいんですの?
 そしてロザリアが懸念した通りに館で働く者たちとすれ違い、 彼女は真っ赤になってオリヴィエの胸に顔を伏せた。
 オリヴィエはロザリアを抱えたまま器用に寝室のドアを開け、 ロザリアをベッドへと降ろした。
「ん。これで大丈夫」
「全然大丈夫じゃありませんわ!」
 ロザリアは真っ赤になってオリヴィエに抗議した。
「お屋敷で働くかたに、見られてしまったじゃないですの」
 語尾が小さくなるロザリアをベッドへ押し倒しながら、 オリヴィエは軽くあしらった。
「これからいつもこうなんだから、彼らにも慣れてもらわなくちゃ、ね」
「そういう問題ではありませんわ!」
 憤って言ってから、ロザリアははたと気がついた。
 ……ちょっと待って、これからいつも、こうなんですの?
 ロザリアはちょっと、いやかなり怯んだ。
「だってもう決めたから」
 オリヴィエはロザリアにまた口付けながら、手を服の中へ這わす。
「…ん……っあ!……何をですの?」
「今日はキスだけじゃ帰さない」
 ざわっとロザリアの体の奥がその言葉に反応した。 それでもわずかにロザリアは抵抗を試み、体を起こした。
「でもわたくし……」
「もう。ウルサイね」
 オリヴィエの手が、ロザリアの髪、ひとつの縦ロールの根元へと刺し込まれると、 ざっと下へと髪を梳く。 きっちりとセットされていた縦ロールは解け、 青いたっぷりとした巻き毛がオリヴィエの手の内で丸まった。
「何を……─!こんな髪では帰れませんわ」
 顎を上げてロザリアを見下ろし、意地悪くオリヴィエは微笑んだ。
「いいんだよ。今日はもう帰さないって決めたんだから」
 そしてもうひと房、髪を梳いた。
「好きだよ、ロザリア」
 低音の、オリヴィエの本気の声。 ロザリアの抵抗はそこまでだった。
 そしてそのままゆっくりと、 オリヴィエはロザリアを優しいベッドの檻へと閉じ込めた。

end


わたしに書けるのはここまでです。(笑)ヌルくてすみません! R15くらいっすよね?(え?R13?今そうなんっすか?) 初めてなのに、オリヴィエ様ムードも余裕もないという…ひどい。(笑) キーボード打ち出したら、勝手にそういうことになりました。あれえ? でもこの後はきっとすごく優しいので大丈夫です。(書けないけど) 髪をとくとこが、書きたかった。
2007.9.23



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